一句鑑賞

いきながら一つに冰る海鼠哉     芭蕉

翁が亡くなる前年の句。桶には海水が入っている。普通の海水は氷点下1.8度で凍る。周辺はそれ以下の気温だったことが分かる。もう一つ分かるのは既にこの海鼠が死んでいるということ。海鼠は凍れば死ぬ。この句の「冰る」は「死ぬ」ことである。「いきながら」の上五は当然、対極の「死」を示す。
先人の鑑賞を幾つか読むと、どれも解釈の柱に「生あるものの哀れ」を据え「愛憐の目が注がれている」などとつづる。どの鑑賞も桶の氷を融かせば海鼠が蘇生するような文章で、死の存在が欠落している。
芭蕉は“武士”を目指したがかなわず、世捨て人に近い俳諧師になる。アウトローの義仲を好むなど隠者としての死生観も構築していき「古人も多く旅に死せるあり」と、常に死を意識する。長旅を終えても、自我の振る舞いに衰えはないのだが、体の衰えは如何ともし難いのだ。そんな折、死んだ海鼠の姿から、迫り来る自らの死を思った。「いきながら一つに」は、海鼠が生きていたという認識と凍りゆく過程を淡々と表現する。この句は、海鼠の死の精密な写生であり、自らの死生観を通して描いた自画像でもあるのだ。

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